当塾から緑台高校へ進学した生徒のお話です。(4分程度で読めます)
10年ほど前の女子生徒です。多田中学の1年生の時に入塾してくれました。定期テストの成績は失礼ながら壊滅的で、10点台や一桁なども散見されました。
一番講師をビックリさせたのは、
「先生!ドイツってイギリスですか!?」
という質問でした。
「…えぇ!?」
と叫ぶのを必死に我慢した記憶があります。
入塾したての頃は、成績もなかなか伸びず講師陣も四苦八苦していました。興味の対象が狭く、また興味のないことは「自分に関係ないもの」かのようでした。ただ、興味さえあれば深く突っ込んでいく労力を惜しまない子でもありました。当時の「ジャニーズ」のことなど、まるで業界人かのように我々に詳しく話して聞かせてくれました。
講師と交流し様々な会話を交わす中で、
「そうなん!?」
と未知の世界に触れて驚くことが増えていったように思います。
「”umbrella”って”小さい影”みたいな意味で、始まりは日傘って説あるんすよ?」
という講師の豆知識に、教室の外まで響く声で驚いていたりもしました。徐々に、自分では興味を向けることさえなかったことに目を向け、知る喜びを少しずつ感じながら、2年生、3年生と成長していく中で成績にも変化が起きていました。受講していた英語と数学は平均点(通常およそ60点前後)に追いつき、それを10点も20点も追い越していくことさえありました。さらにその子は、当塾の「量をこなせば質になる」という理念のもとで与えられる厳しい学習に向き合い、逃げなかった点も素晴らしかったです。いやちょっと逃げている時もありましたが、最終的にはペンを握り直してくれる子でした。
最初は、勉強など興味の範疇にない、と言わんばかりの子でしたが、気づけば志望校アンケートに「緑台」と書いて見せるほど、勉強で自分の人生をよい方向に向ける姿勢を身につけていました。特に3年生の夏休み以降など、ほぼ毎日自習で来塾し、講師に疑問をぶつけながら何時間も勉強していたため、1年生の頃を知る我々には別人に見えたほどです。
当時、北陵や緑台、県立伊丹などの公立高校が大きく定員を割ることなどなかった中、その子の受験結果は「緑台合格」でした。自律的な学習姿勢を手に入れた彼女にとってそれは必然的な結果だったと思います。そして、その素晴らしい姿勢のおかげで、寂しいながら我々も役目を終えることとなりました。将来の目標は「教師」でしたが、彼女が教壇に立ち、素晴らしい指導者として児童生徒を教え導く姿は、見たことがなくともはっきり想像できます。
講師は「我々が何とかしてあげなければ」と考えてしまいがちですが、この生徒は我々に「自分から走り出すきっかけをたくさん与えてあげることが、何とかしてあげる以上に大切」という教訓を残してくれました。与えられるものだけ受け入れても、それは例えて言えば「川に流されるに身を任せている」だけです。流れ着いた先ではなく、自分で泳ぎ着いた先にこそ、求めていたものがあるのでしょう。